2023年12月24日

<再配信版 第35話 能「隅田川」の世界 >

こんばんは♪

十二月も半ばをすぎますと、これが今年、最後かなぁと人とお会いしてもおもい

「どうぞよいお年を!」と最後の挨拶を交わします。

別に12月31日が1月1日になったとしても何が変わるというわけではありませんが、こうして節目があるのはいいですね。

気分を改められますし来年こそは、、、と抱負も持てますから。

逢いたい人に逢えるのは幸せ。

昨日、神戸能の集いがありまして楠木正成公の湊川神社まで出かけました。

演目が「隅田川」!!観たかった能です。楽しみに行きました。

そして、泣きました。

(;_;)

見た目には涙ぐんでいるぐらいにしか見えなかったとおもいますが、心の中ではおもいっきり泣いていました。。。

悲しすぎます。

ご存じない方のために簡単にあらすじを紹介します。

京都の吉田家。その子どもが人さらいにあって居なくなってしまいます。それで母親が子どもを探す旅にでます。

武蔵国 隅田川のほとりに来ると、船頭が待っていて船に乗り込み向こう岸につく前から念仏の声が聞こえます。

どうして念仏しているかという理由(わけ)を船頭が話しはじめます。

ちょうど一年前に人さらいにあった子どもが身体を病んで亡くなった、と。

親類縁者・両親も誰もわからないので近くの人が塚を作り弔った。

ちょうど今日が一周忌なので念仏しているのだ、と。

母は、詳しく聞きます。その子どもの年は?名前は?お父さんの名前は?

すると

母が探し求めていた我が子「梅若丸」だったのです。

母は、泣きます。ひたすら泣きます。夢であってほしい、と。

(;_;)

子どもに会えなくて狂っていた母!

その母に船頭は、言います。

子どもにたくさんの人が念仏を手向けているけど、一番よろこぶのはお母さん!

アナタの念仏ですよ!!

そういって墓所の前まで母を案内し

母は墓所を掘り起こしてもう一度私の子どもの姿が見たい!!と人々に頼みます。

しかし無理なこと。。。

(;_;)

泣きます。

観てる人も、一緒に。。。

やがて子どもが喜ぶからと母は念仏をはじめます。

すると塚の中から皆んなの念仏に合わせて子どもの念仏の声がきこえました。

これも泣けます。。。

かなしいような うれしいような 気持ちになり

母は聞いた? 聞こえた? 子どもの念仏の声が、、。

船頭は私も確かに聞いた!!、と。

では私たちは、静かにしているからお母さんだけで念仏してごらん、と。

母は鉦鼓を叩きながら念仏します。すると、子どもが念仏を返してきて、なんと塚の中から姿を現します。

やっとのことで子どもと再会できた母!!

泣けます。。。

母「あれは我が子か!」

子「母にてましますか!」

そして歌詞は「互いに手に手を取り交わせば」とあるので

私が稽古で謡っているときは「しっかりと、手を握れたんだ!」よかった!お母さん!!

と、思っていたのですが

違いました。

母が手を取ろうと伸ばしたその手の下を子どもはすり抜けてしまいます。

再度、母は手を伸ばしますが、、、

子どもは、袂をすり抜け、塚の中に入ってしまいます。

もう、悲しすぎて涙、涙、涙、、、、ですよ。

死者を弔うための能ですが、、、

やはり死者は死者。

生きている者とは触れあうことは出来ないのです。

そのこともちゃんと表現しています。

そして母は、塚の前で夜が明けるまで泣き続けます。

泣き続けたまま、エンディングです。

悲しすぎます。

(;_;)

☆☆

自分の子どもを亡くされた方にはたまらない演目です。

人の世の無常をつくづく感じます。

悲しさ 哀しさ 切なさ 寂しさ

好きこのんで経験はしたくないですが、

他人(ひと)の子の死を悲しむ涙。

他人(ひと)のつらさを自分のつらさとして感じて流す涙。

他人(ひと)の痛みを自分の痛みとして感じて流す涙。

この涙は、魂を洗います。心の一番、深いところから溢れ出してくる涙は心を浄め、死者の魂を鎮めます。

これも、人生には必要。

(;_;)

愛する人を今年、見送られた方もおられるかも知れません。

今年でなくても愛する方とお別れをされた経験があるとおもいます。

居なくなると存在感はゼロに感じるかも知れません。

しかし価値は、素敵な人と出会えていろいろなことを一緒にしたという価値は亡くなっても変わりません。

むしろ、高まることもあります。

それを忘れてはいけないとおもうのです。

悲しいばかりではないことを知って下さい。

そして人と人が出会える不思議、有り難さを感謝して今年を終えましょう。

来る年はすばらしい年になりますように。

心より、皆さまのご多幸を念じています。

寒くなってきています。

どうぞご自愛下さい。

ご機嫌よう。

けいくう

会いたさの 一念凝りて 飛び込みぬ 波よ この身を 呑むか 渡すか

会いたさに こがるるおもい 知ろしめし かなえて給え この会いたさを

                          (田中木叉上人道詠)

(この文章は2015年12月27日に送った文章に一部編集を加えた再掲載です)